私的まほろば
誰も欠けてはならない
一つのちゃぶ台に、家族がぎっしり集まって、すさまじい勢いで並べられた料理にがっつく。山のようにあったおにぎりがどんどんなくなっていく。作るのは大変だったのに、なくなるのは一瞬だった。さながらおかずを奪い合う運動会の昼時のようで、緊迫した話をしているのになぜか安らぐ。今のこのやる気に満ちた陣内家を止められるものはいるだろうか?いや、いないだろう。今、陣内家は、男性陣のみならず女性陣までもが燃えている。
『大丈夫』
保証なんてどこにもないのに、不安がこみ上げないのは、ここに居るのがみんな頼りになる家族だから。
高校野球を映し出しているテレビを消そうとした由美を、万作が『了平も家族だ』と言って止めた。
「慶長20年、大阪夏の陣じゃ徳川十五万の大軍勢にご先祖様は討って出た」
「それって負けたんじゃ……」
「こういうのは、勝ちそうだからとか負けそうだからとかじゃねえんだよ」
「で、でも……」
「負け戦だって戦うんだよ、ウチはな。それも毎回」
「バカな家族」
「そう、私たちはその子孫」
「でも、なんか策はあるんでしょ?」
誰もが気になっていることを由美が問いかけ、それに侘助と健二が答えた。
「今から奴をリモートで解体する。だが間に合うかどうかは五分五分だ」
「混乱の原因はアカウントを奪われていることです。もっと有効な手段で奪い返すにはどうすればいいか」
カタ
ちゃぶ台の上に所狭しと並べられた皿と皿の隙間に、軽く音をたてて置かれた物。
「AIのアルゴリズムを揺るがす有効な手段。それは人の『勝負運』です。――これに賭けます」
皆がはっとした。陣内家の誰もが慣れ親しんだ、健二の手元に現れたそれ。
―――花札。
「『こいこい』で一発逆転を狙うのね!ナイスアイデア!」
「しかし、ハイリターンだがリスクもでかい」
「それが何よ!ウチらは陣内家の人間よ!」
「花札とはウチらしい戦い方じゃないか」
「で、健二君はそれを夏希に託すわけだ」
「その通りです。――夏希先輩、お願いします」
「…え?」
「先輩がやるんです」
皆が夏希に注目する。ここで、私がやるよ、と言えるほどの勝負運は強くないし、花札も強くない。こんな重大な任務に腰が引ける気持ちは良く分かるが、夏希なら出来るような気がした。だからこそ、夏希には悪いが押し付けてでもやってもらうしかない。人々が勝手に武勇伝を語りだし、赤面する夏希をよそに意見はまとまっていく。
「大丈夫よ、アンタなら!」
「失敗したってお前一人の責任なんてしないさ」
「俺ら全員でひとつだからな!」
(家族は、皆で一つ……)
(2010/08/27)