私的まほろば
あきらめたらそこで試合終了になってしまう
侘助おじさんは横目で一瞬だけチラリとを見て、そしてにやっと笑った。その表情に、の心臓が思わずドキリとしたのは致し方ないことだと思う。どうもこの41歳独身コンビは教育上よろしくない。理一おじさんも侘助おじさんも、妙に色気というか…うまく言えないがとにかく怪しい(いや、妖しいという表現の方がしっくりくるかもしれない)雰囲気を持っている。と、が脳内でそんなことを考えている間に、侘助おじさんはすぐさま画面へ視線を戻して今度は画面の隅に何か一文を出して、お前だろ?とささやいた。
『【拡散希望】OZ内ワールドクロック(現在はカウントダウン)の01:00:00:00より、CASINOステージにて、アカウントを略奪しているAIラブマシーンと、NATSUKIがアカウントを賭けて対戦します。応援、よろしくお願いします! 』
気恥ずかしさと、身内に指摘されると思っていなかったことを指摘されたこととで、は内心ギクリとする。口を開けてパクパクするも、ショックのあまり声が出てこない。
侘助おじさんが笑いを堪え切れなかったように、くっくと笑う。
「わざわざ誰かに言ったりはしねぇよ。ったく、世界中に広がってんぞ、コレ。お前も随分とお偉い奴らに知り合いが多いみたいだな。…ほら、いつまでも俺のところにいると王子様が妬いちまうぜ?面倒なのは俺なんだからさっさと行け」
色々と言いたかったが言葉には成らず、なにやら作業の邪魔になってきたようなので、致し方なく、はーい、と返事をして立ち上がる。最後にもう一回夏希が奪取したアカウント数をチェックすれば、その数はもう30万に成ろうとしていた。立ち上がったは、今度は理一おじさんの隣にさっきと同じように陣取る。けれど理一おじさんは忙しそうな様子だったので、ふざけるのは憚られ、は素直にぐるりと半回転して夏希の大画面に意識を戻す。夏希の取り戻したアカウントは、が移動したほんの僅かな隙に30万を越えたらしい。
「夏希先輩もっとレートをあげてください!」
健二君からの指示に、NATSUKIがレートをあげていく。(あ、今度は直接指示出してる)皆がその一言にカウントダウンの存在を思い出し、確認する。残された時間は、およそ30分。思わずゴクリと生唾を飲み込んでしまう。
『先輩集中して下さい!』
画面の中で佐久間君が叫んだ。つられて皆がはっとするが、もう、遅かった。冷たいものが腹にたまって重たくなっていくのが分かった。掌だけでなく、指からも指先からも汗が滲み出てくる。(私でさえ、これなら、…夏希は…?)夏希は額から異常なほどの汗を流しながら、目を見開き、震える手で携帯を握りしめていた。その姿は、先程アカウントを奪われたときの佳主馬に似ていた。
『UNKNOWNさんが”こいこい”しませんでした。NATSUKIさんの負けです。得点が移動します』
感情の無い声が、静かにアナウンスする。それにあわせて夏希の得点は激減していき、74という数字でピタリと止まった。このまま賭けを続けるにはあまりにも得点が足りないことは、誰の目にも明らかだった。
(2010/08/30)