私的まほろば

人との繋がり

『レートに対して、掛け金が不足しています。ここでゲームを終了しますか?――レートに対して、…』

温かみの無い音声が、無情な現実を繰り返しアナウンスする。(やっぱり、ダメだったか……)自分のしたことの意味の無さ、無力さが、悔しい。夏希は精一杯戦った。今だって泣き出さないで携帯を食い入るように見つめている。それに対し、私は何をしたといえば、ただログインしただけだ。また、ぐっと涙腺が熱くなる。けれどここで私が泣いたら、夏希を責める事になってしまう。だから、ここで泣いちゃダメ。瞬きの回数を増やして、溢れそうなものを堪える。

「侘助さん、解体プログラムの方は!」
「まだ半分だ!…クソッ」
「佐久間!レートの改ざんでもなんでもいいから、何とかならないの?」
『無茶言うな!』

健二君が、今打てる手を必死に探している。けれど、無情なアナウンスは未だに同じ言葉を繰り返し続けている。(私はオロオロしているだけ。何をやっても無駄。ほら、役立たずじゃん……)彼らに貸せるだけの知恵も、人を動かす魅力も、誇れるだけの能力も。自分には何一つ無い。多くの人が夏希の勇姿を見ていてくれたことは嬉しいけれど、結局、他力本願ではいけないのだ。

座り込んだ足に、まったく力が入らない。手も携帯を握り締めるので精一杯で、何をするにも身体が重くて億劫だ。(泣いちゃだめ。泣いちゃ、だめ…)ガクン、と頭に重さが加わる。何も言わずに髪を梳くように撫でてくれているのは、いつもの大きくて優しい手。それだけで、瞳は限界を超えてしまった。強制的に俯かされたため、顔は髪で隠れている。けれど、畳にポタポタと落ちて跡を残していく涙は隠せない。歯を食いしばり、嗚咽を堪え、心の中で夏希にごめんと謝り続ける。そんな時。

「……えっ…」

理一おじさんだけでなく、周りの皆も画面を見やる。ポンっと頭を叩かれて、も顔を上げる。さっきまでチカチカと点滅していた74という数字。それが今、75になっている。

「…え?」

了平には知らせていないはず。それとも気がついたのか。…否、今は試合中のはずだ。続けて素朴なアイコンが画面上に姿を現し、吹き出しに言葉が紡がれる。

『An Natsuki,
 Bitte benutz' meinen Account.』

それはすぐさま自動的に日本語へ翻訳される。

『ナツキへ。
ボクのアカウントを、どうぞ使ってください。』

涙でにじむ瞳を、空いている片手で拭う。我が目を疑うとはこういうことだろうか。何が起きたのか理解できないうちに、どんどん似たような言葉の吹き出しが画面に溢れていく。ポコポコポコポコと聞きなれれた音とともに、カジノステージには数え切れないほどのアバターが姿を現した。持ちアカウント数を示す数字が、恐ろしいスピードで回転していく。ついさっきまでの二桁が嘘のようだ。

(また、世界が涙で滲んでく…)

(2010/08/31)