私的まほろば
一難去ってまた一難、とはよく言ったものだ
『五光です。NATSUKIさんの勝ちです。アカウントがNATSUKIさんに移動します。UNKNOWNさんがカジノステージから退出しました。ゲーム終了です』
大きな黒ウサギは姿を消し、カウントダウンは止まった。そのことが、これで全てが終わったのだと皆に無言で告げた。
「勝ったぁぁああ!」
皆、近くにいる人に勢い良く飛びつき抱き付き合う。私も調子に乗って久しぶりに理一おじさんに抱きつこうかと目論む。しかしなぜか未だ緊張した表情の彼に、思い止まる。
「おじさん…?」
「……なんてことだ…」
異様な雰囲気で一気に静まった和室に再び悪魔の機械音が鳴り響く。
ピッ ピッ ピッ
カウントダウンが止まらない?!、あらわしも制御不能のままだ!、なんで!?、ラブマは消えただろ…!、と皆が一気に混乱しているところへ、佐久間君が必死に落ち着きを払いながら答えてくれた
『ちょっと待って!世界中のワールドクロックは止まってるぞ!?世界の核施設の画像も無くなって、……え…あれ?』
佐久間君の矢印が一本の線をたどり、一つの画像にたどり着く。画像がクリックされ、徐々にズームされていく。映し出されてきたのは見覚えのある犬。血の気が引いていく音が聞こえたような気がした。
「――もしかして、ここにあらわしを落す気か!?」
はっとした独身おばさんたちが侘助おじさんに説明を求めた。
「奴はまだ消えていない。アカウントを2つ残してまだOZ内に潜伏してる!」
「一つはあらわしの制御システム。もう一つは……」
「僕たちの接続場所を突き止めたんだ!仕返しのつもりだよ!!」
「もう、任意のコース変更は無理だ……っ」
理一おじさんが、苦しげに告げた。それを合図に他のおじさんたちが一斉に避難の指示を飛ばし始める。こういう事態における手際のよさは、現場で働いているだけあってさすがだと思う。皆がバタバタ動き回って、今一番大事なもの守るために持ち出しにかかる。
「!お前もさっさと逃げろ!」
はっとして見上げれば、理一おじさんが立ち上がって、座り込んだままの私に手を差し出してくれていたた。その手をとり立ち上がったものの、何かが違う気がして、動きだせない。そこへ、健二君がレポート用紙を手に画面の前に飛び出してきた。
「佐久間!管理棟に奴のログは残ってる?!」
『お……おう、任せとけ!』
「まだ何かやる気?もう任意のコース変更は出来ないって……」
「理一さん、あらわしはGPS誘導だって言ってましたよね」
「そ、そうだが……」
「奴のログを辿ってあらわしの制御システムをハッキングします。けど今からでは大きな軌道変更は難しいと思うので、この辺りで一番被害の少なそうな土地の座標を出してください!」
素早い健二君の指示に理一おじさんが再び画面と向き合う。おじさんは必死にこの辺一体の画像を出して何かと照らし合わせ始めた。再び理一の横に座り、も同じ画面を見つめる。
「おじさん、裏山!今は市の管理で基本的に誰もいないんじゃなかった?」
「そうか!」
ぐしゃり、と普段より乱暴に頭を撫でられた。
「そこで十分だ。こっから先は俺に任せろ!……他人を守ってこそ己を守れる。だよな、?」
「うん!」
(2010/09/02)