私的まほろば

ハッピーエンド+α

パサッ

軽い何かが落ちたらしい。

<――ついにやりました……!上田高校奇跡の大逆転!>

どうやら無事だったテレビが、了平率いる上田高校の勝利を伝えている。由美さんが飛び上がり、それにつられてみんなもポツポツと立ち上がり始めた。どうやら、というよりやっぱり私を抱きしめて上から覆いかぶさってくれたのは理一おじさんだった。そして私が抱きしめていたのは、佳主馬だった。その佳主馬は、母である聖美の背中に片手を回していた。なんだかわっと色んな感情が私の中で湧き出してぐるぐるしているけれど、とりあえず、ぼけーっとほっとしている佳主馬の頭をぎゅっと抱きしめる。

<キャプテン、陣内が今優勝旗を手にしました!これで24年ぶりの甲子園出場となります!>

「理一、あんた落下位置どこに……」
「う、裏山……?」

どうやら皆も同じ状態らしく、困ったように乾いた笑いを浮かべている。私も同様に笑いながら、目の前の佳主馬の髪をわしゃわしゃすれば、佳主馬はちょっと顔を赤くして怒ればいいのかどうすればいいのかわからない顔をする。ありがとう、と言って離れたら小さく黙って頷いた。テレビ画面にかじりついて大騒ぎしている由美さんは、ついさっき命の危機を迎えていたわりに、なんだかとっても幸せそうだ。

<感動のフィナーレです!>

妙に現在の陣内家とシンクロした解説に、皆がいっせいにバンザーイだとかなんとか叫びだす。もちろん私も。と、どこかで勢いよく水が湧き出る音がした。もしかしたら、さっきの衝撃で水道管が駄目になったのかもしれない。けれどあまりにもタイミングがこれまたよかったから、なんかもうどうだっていいような気がした。



全力で喜びを表しているうちに、いつの間にやらちゃっかりしっかり理一おじさんに抱きついていた私は、落ち着いてからまたぎゅっと抱きついた。こうしておじさんに抱きつくのは凄く久しぶりな気がする。いつからかさすがにそれは恥ずかしくなって出来なくなったし、おじさんも昔は抱っこしてくれたのにしてくれなくなった。それはもちろん私が大きくなったからなのだけど、今はなんとなく許される気がした。

「ぎゅーっ!」

言いながら、おじさんのお腹に抱きつく。理一おじさんは黙って私のぼさぼさになった髪を梳いてくれる。なんだかそれがとても懐かしくて、妙にほっとして、それと同時に全て終わって無事だったことが嬉しくて、けれどやっぱりおばあちゃんはもう居なくて。ごちゃごちゃな気持ちが一気に涙になって溢れ出てきた。私が子供みたいに大泣きしはじめると、理一おじさんは頭を撫でるのをやめてさっき私が佳主馬にやったように腕で頭を抱きしめてきた。それに甘えて泣いていると、思いのほか近くから声がした。

「泣き虫。……お前、頑張っただろ。世界中からアカウントが集まったのはお前のおかげなんだろ?」

驚いて顔をあげたら、にやりと笑った理一おじさんの顔が真上にあった。慌てて顔を逸らしたら、なにやらこっちを見ていたらしい侘助おじさんと目が合った。しかも一部始終を見られていたのか、ウィンクをよこしてきた。

(よ、41歳コンビ……!)

(2010/09/04)